アプリ活用 エディタ編



エディタについてお話しますが、私にとってエディタとはほぼMIFESですので、 MIFESに興味ない方には申し訳ありませんが、MIFESの話と考えて下さい。 あくまでも個人的な経歴であって、どのエディタが優秀かというような話でもありません。


「文字通り」MIFESとの出会い


MS-DOSの存在を知ってから、MIFESというアプリケーションの存在に気づくまでは、 それほど時間はかかりませんでした。 MS-DOSのユーザであれば、純粋にOSのコマンドだけを使っている人はまずいません。 普通は、何らかのアプリケーションを起動して作業します。 そうした中で、汎用的な用途でよく使われるアプリケーションの代表格が「エディタ」と「ファイラ」でした。

いつものように会社勤めをしていたある日、運命の出会いが突然やってきました。 私の席の近くでパソコンを操作している人がいて、何気なく覗いてみたら、 水色の画面でファイルの中身がサクサクと編集されているではないですか。 後で作業者に名前をこっそり聞いたら「MIFES」だそうです。 「私も欲しい」と感じ、すぐに購入したのを覚えています。 まさに一目惚れでした。当時、私のMS-DOSはバージョン3.3A、MIFESのバージョンは4.0でした。

その後、MIFESは 4.0 → 5.01 → 5.5 とバージョンアップしていき、 自分のPC環境もそれにあわせてアップデートしていきました。 ただし、エディタとしての基本機能自体はほとんど変わらず、 主な変化点は付属ツールの充実にあったように思います。 余談ですが、MIFES 3.0は使った記憶はないものの、所有しています。 おそらく後からジャンクショップで入手したのでしょう。

私が試した限りでは、MS-DOS 2.11 および 6.2 の両方で、MIFES 3.0 〜 5.5 が正常に動作しました。 つまり、MIFESの各バージョンは、MS-DOSのバージョンには依存しない、比較的安定したソフトだと言えます。 MIFESのバージョン選びは、基本的に当時のMS-DOSのバージョンに合わせるのが基本です。 ただ1台だけ環境を作るなら、最新だけでも充分ですし、 ハードディスクイメージ上に各バージョンを並べておくと、いつでも使い分けできて便利です。

バージョンごとの主な変更点
■ MIFES 3.0 → 4.0
紙ベースの時代は大事な変化だったのかもしれませんが、今となっては特筆すべき差は見当たりません。
印刷用の整形機能などは、仮想環境でプリンタを使わない現在では不要になっています。

■ MIFES 4.0 → 5.0
 ・MINI.EXE の追加:機能限定の軽量版。フロッピーディスクに収める際などに重宝しました。
 ・MILC.EXE の追加:マクロコンパイラ(当時は未使用でした)
どちらも名前の先頭に「MI」が付いていて、MIFESとの統一感が洒落ています。 「MIFESを256倍使うための本」でMILCを与えてMIFESを育てましょう、みたいなことが書かれてました。 残念ながら当時の私は、マクロを自作するほどエディタを使いこなしていませんでしたので、 宝の持ち腐れとなり、ミルクはチーズになってしまいました(ウソですよ)。

■ MIFES 5.0 → 5.5
 ・INSTALL.EXE の追加:インストーラ機能の導入
 ・MIBE.EXE の追加:バイナリエディタ
 ・起動時のファイル一覧表示が、従来の 4列×8行(32ファイル)から 5列×16行(80ファイル)に拡張
当時としては、MIBEのようなバイナリエディタは非常に画期的でした。 PC-9801環境、そしてMS-DOSの範囲に限ると、私の知る限り唯一のファイル編集専用のバイナリエディタです。 MIBE.EXE単独でも、歴史的価値・実用的価値(エミュレータ内では)を持っています。
似たような機能を持つものに「エコロジーII」や「GF」がありますが、 内部的にはファイルが占有したセクターのエディットをしています。 大きさが決まっているため、16進ダンプ情報の上書きのみで追加ができないという意味では、 バイナリエディタではなく「パッチ当て専用ツール」です。
INSTALL.EXE MIBE.EXE
また、ディスク容量の拡大とFAT12からFAT16への移行により、 1つのディレクトリに多数のファイルが存在する状況も珍しくなくなってきました。 それに対応する形で、MIFESの起動時に表示されるファイル一覧の行数と列数も増加し、 表示件数が32件から80件へと大きく増えました。 劇的な使い勝手の向上とは言えませんが、目立つ変化だったため、 周囲の人たちも気づいて「おっ」と驚いてくれたのが、ちょっと嬉しい思い出として残っています。
起動画面 5.0まで 起動画面 5.5

一目惚れして付き合い始めたMIFESと、「デート」ではなく「アップデート」を重ねた日々でした。



小さな親切・大きなお世話


余談になりますが、当時のアプリは全てと言っていいほどFD(フロッピーディスク)での提供です。 MS-DOS 2.11 の時代には、「MS-DOSを自由にバンドルしてよい」とされていたそうで、 FD起動でそのままアプリを使用できる形態で発売されたソフトが多数存在しています。 MS-DOS・HD(ハードディスク)を持っていないユーザーへの配慮です。

しかし、時代は流れます。HDの普及とともに、FDから直接アプリを起動する文化は徐々に姿を消し、 すべてのファイルをHDにコピーして常駐させるスタイルが主流になっていきました。 この頃になると、使い勝手の良さを売りにしたアプリケーションは、 専用のインストールプログラム(セットアップツール)を同梱するようになりました。

FDを使う機会は、ほぼインストール時に限定され、作業の最後にパソコンの再起動を行うものも多く見られます。 ユーザーは「FD起動非対応」のディスクをうっかり入れたままリセットしないよう注意する必要があります。 未対応のFDを入れた状態で起動すると、「NO SYSTEM FILES」などと表示され、ビープ音が鳴り続け、 FDを抜いてリセットしなければならない状況になります。

この動作は、MS-DOSで「システム転送(SYSコマンド)」を行わずに初期化したFDを使用した場合に起こる、 OSの標準的なものです。 メーカーによっては、独自の注意喚起メッセージをあらかじめ組み込んでいるものもありました。 MIFESは、バージョン4.0の時点でこの種の機能(FD起動時のメッセージ表示)を取り入れています。
独自の起動エラー画面
この機能に対しては、当時から賛否両論がありました。
 肯定派:「こんなところにまで気配りが行き届いているのはすごい」
 否定派:「どうでもいいことに手間をかけるなら、アプリ本体の機能を強化してほしい」

私自身は「技術力の誇示も企業努力のうち」として肯定的な立場ですので、 各メーカーがどんな方法で実装してくるのか楽しみにしていました。

ところが、初期の独自ブートのFDは、MS-DOSのFAT12形式に準拠していないものがあり、 エミュレータ時代になって困ったことが発生しました。 フロッピーディスクは、2DD・2HC・2HDなどの媒体種類があり、 同じ2HDでも、N88-BASICもあればMS-DOSもある、といった状況なので、 BIOSレベルのセンス情報を取得し、物理フォーマットでFDの中身を判断しています。

しかし、仮想化されたFDの中身イメージファイルは、ファイルのサイズ・形式・先頭セクタ情報などで判断するしかなく、 EditDisk などのツールでMIFES 4.0のFDイメージファイルを開こうとすると、 「これはFDのイメージではない」と言われてしまいます。 EditDiskはマニュアルモードというものがあり、 正しいパラメータを設定 してあげれば読めるのですが、 毎回数値を入力するのも面倒な話です。

MS-DOS形式で初期化されていると決めつけるものがあれば、実機でもエラーとなったかも知れませんが、 当時そういう状況が生じたかまでは記憶にありません。MIFES 5.5 ではこの点が改善されています。
ブートセクタ 4.0 ブートセクタ 5.5

本来、先頭30バイトはこうでないとダメなんです。
オフセットサイズ値(例)内容
0x003EB 1C 90JMP命令
0x038MEGASOFTOEM名
0x0B20x0400バイト/セクタ
0x0D10x01セクタ/クラスタ
0x0E20x0001予約セクタ数
0x1010x02FATの数
0x1120x00C0ルートディレクトリエントリ数
0x1320x04D0総セクタ数(小)
0x1510xFEメディアタイプ
0x1620x0002セクタ/FAT
0x1820x0008セクタ/トラック
4.0の先頭セクタに、5.5の先頭セクタの30バイトを挿入してあげれば、この問題は解決しますが、 バイナリエディタを使用しての単純な挿入ではダメで、逆アセンブルしたソースに手を加える必要があります。 これはマシン語の知識を前提としていますので、ちょっと敷居が高くなります。 「誤ってFDブートした時の画面が見たい」というマニアックな方以外は、 素直に、空のFDイメージに必要ファイルをコピーするという方法をお勧めします。

個人的には、VZエディタ、FINAL EDITOR、REDなども所有していました。 おそらくMIFESと比較する目的で入手したのだと思いますが、 正直なところ、どれもあまり使った記憶がありません。 これもおそらくジャンクショップで入手したのでしょう。 もしMIFESより良かったらどうしよう、と思って使わなかったのかも知れません。 だったら買うなよ、って突っ込みが来そうですが、そのまま当時の自分に転送致します(笑)。
VZエディタ FINAL EDITOR RED

やがて、エディタとして最低限必要な機能を備えたフリーソフトが続々と登場するようになり、 「全日本エディタにお金をかけない連盟」が設立し、徐々に会員数を増やして行きました。
※そんな組織ありません、断じて!・・・でもそんな空気は確実に流れてました。

ただ、それらの多くがMIFESに似た操作性や画面構成をしていたように、記憶しています。 このことからも、MIFESは日本におけるエディタの草分け的存在だったと言って、まず間違いないでしょう。

MIFESの定価は、たしか当時2〜3万円ほどだったと思います。決して安い買い物ではありませんでしたが、 「その価値があるかどうかは、買って、実際に使ってみて判断する」という考えで購入しました。 生活費以外はすべて趣味に投資できた独身貴族の特権、 今思えば、それは私の人生で最大級の贅沢だったのかもしれません。
誰ですか?「結婚」のことを「冠位剥奪」と言っているのは・・・



窓越しに見えたエディタの未来図


ここからは、PC-9801ではなくDOS/V機での話になり、Neko Projectとは無関係になりますが、 テーマとしては「エディタ」という括りで、引き続きお話ししていきます。

バージョン発売年対応OS(主に日本語版)備考
MIFES for Windows Ver.1.01993年Windows 3.1(推定)未入手
MIFES for Windows Ver.2.01995年16Bit版 : Windows 3.1
32Bit版 : Windows 95
MIFES for Windows Ver.3.01996年Windows 95
MIFES for Windows NT(Ver.4.x)1997年Windows NT 3.51 / NT 4.0未入手
MIFES for Windows Ver.5.01999年Windows 95 / 98 / NT 3.51 / NT 4.0 / 2000(β)
MIFES for Windows Ver.6.02002年Windows 95 / 98 / Me / NT 4.0 / 2000 / XP
MIFES for Windows Ver.7.02005年Windows 98 / 98SE / Me / NT 4.0 / 2000 / XP / Server 2003
MIFES 82007年Windows Vista / XP / 7 / Server 2003 / 2008(推定)
MIFES 92011年Windows XP / Vista / 7 / 8 / Server 2003 / 2008 / 2012体験版のダウンロードのみ
MIFES 102015年Windows XP / Vista / 7 / 8 / 8.1 / 10
/ Server 2003 / 2008 / 2012 / 2016 / 2019
体験版のダウンロードのみ
MIFES 112023年Windows 7 / 8 / 8.1 / 10 / 11(64bit)
/ Server 2012 / 2016 / 2019(※XP/Vista/32bit/英語OSは非対応)
体験版のダウンロードのみ
Windows 3.1を本格的に使い始めたころには、MIFESはすでにVer.2.0(16bit版)になっており、 ここからWindows版の使用を開始しました。 その後、Windows 95の登場により、Ver.2.0の32bit版、そして32bit専用のVer.3.0へと移行していきます。 Ver.4.0は所有しておらず、Windows NT4を本格導入した頃にはすでにVer.5.0へと進化していました。

Windows 時代になると、OS標準で「メモ帳(Notepad)」という簡易エディタが添付されるようになります。 とはいえ、本格的なユーザーには機能不足であることが多く、代替となる高機能エディタが次々と登場してきました。例えば、
 ・EmEditor(市販アプリ)
 ・秀丸エディタ(シェアウェア)
 ・NotePad++(フリーソフト)
 ・TeraPad(フリーソフト)
などなど、選択肢は非常に豊富になり、「どれを選ぶのがベストか分からない」という嬉しい悩みも生まれるようになります。

さらに、ソースコードの編集に特化するなら、Eclipse や Visual Studio Code といった 統合開発環境(IDE)のエディタ機能でも十分ですし、 HTMLやXMLなど、特定の書式に対応した専用エディタも充実してきました。

MIFESのWindows版に絞って話を進めます。 MIBE.EXEのようなものはなくなったのかと思いきや、 拡張子によって普通のエディタとバイナリエディタのどちらを使うか設定する画面ができ、 その後さらに、ファイルの内容から自動判定してくれるように進化します。 つまり、単一の実行モジュールに統合されたということです。

DOS時代からのMIFESユーザーのサポートとWindows時代の新ユーザーの取り込みを図るため、 インストール時に、DOS版MIFES風にするかWindows標準にするかなどの選択ができるようになり、 この機能はMIFES8時点でもサポートされています。 私の経験でいうと、Windows版が出始めた頃は「DOS版MIFES風」を選択していたことは間違いないのですが、 他のWindowsアプリを使いこなすようになるとエディタだけMIFES風というのに違和感を持ち始め、 「Windows標準」に変わっていきました。具体的にどのバージョンからというのは記憶にありませんが、 利便性を求める自然な選択が、結果的にMIFESの特徴・価値をひとつ奪ったこことになります。 MIFES利用を継続するかどうかに影響してきますが、このことは後述します。
Ver.3の選択画面 Ver.8の選択画面

画面が広くなればエディタとしての使い勝手も上がりますが、 これはアプリの進歩ではなくOSの進歩です。 いろいろな文字コード体系に対応していきますが、これもAPIが充実したことによるところが大きく、 アプリの進歩でもありますが、OSの進歩の範疇と私は考えます。

ワープロソフトという選択肢もある中で敢えてエディタを使う人は開発目的であることが多いと思います。
開発者のひとりとして、私個人がエディタに求めるものは、
@行数は多ければ多いほどいい
たくさんの処理を一度に見ながら編集できるのはありがたいです。

A横2画面に並べて編集したい
他の参考ソースを見ながらとか、変更前後の比較をしながらとか、比べて編集したいケースは多いです。

周りの人達の意見にも耳を傾けると、
B予約語などの色を変更したい
これは、カスタマイズ機能で対応できるものが多いです。

Cコメント化・戻しなど、言語に特化した操作をしたい
これも、マクロ機能などで実現できるタイプのものが多いです。

@Aなどは、どのエディタを使うかではなく、どの大きさ(解像度)のディスプレーを使うかです。
BCもユーザーの工夫で何とかなります。 Windows上で動くアプリは、ある程度操作性が統一されていて、カスタマイズ機能も備えているものが多数です。 バイナリエディタも、無償で高機能なものが登場し、エディタはテキストだけ編集できれば問題ない状況になりました。

結果的に、どのアプリも差がなくなってきて一番の選択基準が「値段が安い」になってしまったと言っても過言ではありません。 「全日本エディタにお金をかけない連盟」への入会手続きを真剣に検討する私でした。
※繰り返しますが、そんな組織は存在しません!もしあったら、当然ながら入会金は無料ですよね?



「F1」-「Q」-「Y」 最後のキー入力


そんな中で、MIFESを使い続ける理由は、次第に「馴染みがあるから」という一点に絞られていきました。 大して仕事してないけど、会社創立の頃から頑張ってくれている社員をどう扱えばいいのか、 中小企業の社長に聞いてみたい質問です。

個人的に大きな転機が訪れたのは Windows 7 の時代です。 この頃、職場では sakuraエディタ が標準となっており、自宅のMIFESと使い分けていました。 基本的な操作感は似ているものの、微妙に違うキー操作に、しばしば指が迷いました。 「今、自分はsakuraだった? それともMIFESだった?」と頭の中で立ち止まることが、 だんだん煩わしくなっていきました。 どちらか一方に統一するとなると、 職場に私物のソフトウェア(MIFES)を持ち込むことは社内規定で禁止されていましたので、 自宅での環境をsakuraエディタにしてしまおう、という判断に至りました。 こうして、20年以上にわたるMIFESユーザー生活に幕を下ろすことになります。 私が日常的に使う機能の中で、MIFESにあってsakuraになかった唯一のものが、 「記録したキーマクロを指定回数繰り返す」でしたが、 sakuraエディタのマクロはJavaScriptやVBSによる拡張に対応しており、 少しの工夫で足りない機能は補えます。これがMIFESと決別する最後の決め手となりました。

確かこの年、sakuraエディタは「全日本エディタにお金をかけない連盟」から功労賞を受賞したと思いますが、 私の記憶違いでしたらすみません。

その後、MIFES9 では体験版が提供されているため、インストールして試用する程度には使いましたが、 MIFESのバージョンは11となり、最近ではその試用すらしなくなってしまった、というのが実情です。

仮想環境でしか見なくなったMIFES。それは、まるでアルバムの中でしか会えない 元カノのような存在です。一目惚れから始まり、お金も時間も惜しまずに捧げ、 互いに時代の変化に順応しながら寄り添ってきました。 けれど最後は、仕事の都合という現実的な事情で別れることに。
って、これはテキストエディタの話でしたよね?



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