記憶媒体について


Windows3.1〜Windows95の頃、音楽の提供メディアとしてレコードに代わりCDが登場し、 これをパソコンでも活用したいという動きが広がり始めました。 やがてCD-ROMが普及し、読み込み専用だったCDは、書き込み可能なCD-RやCD-RWへと進化。 これによりレコードだけでなく、フロッピーディスクの役割も代替されていきました。 光学メディアの発展はそれにとどまらず、CDからDVDへ、さらにBlu-rayへと進化し、 映像メディアの世界でもビデオテープを駆逐していきました。

しかし、この流れに陰りが見え始めたのは、インターネットとスマートフォンの普及によって、 物理メディアを使わない世代が登場した頃からです。 音楽はストリーミングやダウンロードで聴き、写真や動画などのデータはクラウドに保存する。 そんなスタイルが定着する中で、光学メディアも徐々にその存在感を失っていきました。

そして2025年01月23日、ついに衝撃的なニュースが報じられました。 光学メディアの先駆けであるソニーが、記録用Blu-rayディスクの生産終了を正式に発表したのです。

意外なことに、DVDよりも先にBlu-rayの方が終わりを迎えることになります。 その理由としては、大きく次の2点が挙げられています。
一つは「Blu-rayディスクの寿命がCDやDVDよりも短い」と言われていること、
もう一つは「DVDで十分であり、Blu-rayの需要が想定より伸びなかった」という点です。
これには4K放送が普及し切っていないことも関係しているでしょう。

光学メディアが完全に過去のものとなる日はそう遠くないかもしれません。 しかし、その前に、自分なりに記録メディアに関する技術の歴史を整理しておきたいと思います。


フロッピーディスク


まずは、フロッピーディスクについてです。

媒体の主な種類には、8インチ、5.25インチ、3.5インチの3つがありました。 媒体の側面へのシール、ノッチなどによって書き込み禁止状態にすることができ、安全性や運用上の工夫がされていました。

フロッピーディスクは、樹脂製の円盤に磁性体を塗布したもので、 一定の速度で回転させながら、磁気ヘッドを目的のトラックに移動させてデータの読み書きを行います。 3.5インチディスクを除けば、ディスク自体が柔らかく、折り曲げや衝撃、埃、磁気の影響を受けやすいものでした。 保存状態にも注意が必要で、湿度が高いとカビが発生しやすいなど、 重要なデータを保管するには繊細な取り扱いが求められたことを思い出します。

2025年現在、実機としてのFDドライブはほとんど使われなくなり、FD媒体自体もその役目をほぼ終えています。 現代では主に、エミュレータなどの仮想環境において使用されることが多く、 フロッピーディスクの内容もイメージファイルとして扱われています。 ここでは、FAT12で初期化されたフロッピーディスクの論理構造に関する技術情報を、以下にまとめておきます。
FATIDディスク容量トラック長セクタ長クラスタ長予約セクタFAT数FATサイズルートディレクトリエントリ論理セクタクラスタ総数備考ファイルサイズ
0FEh16085121121643203131D163840
0FCh18095121122643603511D/9184320
0FEh2562612841266820024938''1S256256
0FEh320851221211126403152D327680
0FDh360951221221127203542D/9368640
0FBh6408512212211212806342DD655360
0F9h7209512212311214407132DD/9737280
0F9h1200155121127224240023712HC1228800
0FEh1232810241122192123212212HD/8''2D1261568
0F0h1440185121129224288028472HD/1.441474560



MO(Magneto-Optical disk)


MO(Magneto-Optical disk)についても触れておきます。 名前の通り、磁力とレーザー光の両方を用いるため、 「disk(磁気)」「disc(光学)」のどちらの表記が正しいかは微妙なところです。

各メーカーがフロッピーディスクの後継となる記録媒体を競って開発していた時代、 日本ではMOが広く普及しました。一方、アメリカではIomega社のZIPディスクの方が一般的だったようです。

私自身は早い段階からMOに注目し、128MB・230MB・540MB・640MBの4種類のドライブを、いずれも発売の直後に購入していました。 新しいMOドライブは下位互換性を持ち、たとえば230MB対応ドライブは128MBおよび230MBのメディアを両方読み書き可能でした。 接続方式は主にSCSIで、最大8台まで接続可能でしたが、ケーブルが長くなると転送速度の低下やエラーが発生するため、 異なる容量のMOを複数台同時に接続する意味はほとんどありません。 そのため、古いドライブはすぐに不要となり、当時としてはもったいない思いをしたものと、 四半世紀以上経った今でも記憶に残っています。

仕組みと特徴
MOの最大の特徴は、熱や磁気に弱いフロッピーディスクの欠点を補うための構造にあります。 媒体表面はポリカーボネート樹脂でコーティングされており、常温では磁気が伝わらないように磁気絶縁されています。

データの書き込みは以下の3ステップで行われます:
 加熱:レーザーで表面をキュリー温度(磁性体の磁気特性が変化する温度)まで加熱
 磁化:外部から磁力を加えて磁性を変化させる
 冷却:冷えることで状態を固定(定着)
この構造によって安全性は高まりましたが、書き込み速度は遅く、 データを書き終えてディスクを取り出すと、表面がかなり熱くなっていたことをよく覚えています。

大容量化の技術
MOは容量ごとに新技術が導入され、性能が大きく向上していきました。以下にその主な変遷をまとめます。

■ 128MB → 230MB:ZCAV方式(Zone Constant Angular Velocity)
従来の128MB媒体では、ディスクの中心から外周まで等角度でセクタを区切っていましたが、 これは外周部分で記録領域が無駄になるという欠点がありました。 ZCAV方式では、外周に向かうほどセクタ数を増やすことで、記録密度を高めています。 ディスク全体を複数の「ゾーン」に分け、それぞれに異なるセクタ数を割り当てる方式です。 そのため、230MB以降の媒体では、セクタの切れ目が均一な同心円状ではなく、ゾーンごとに変化して見えます。

■ 230MB → 540MB / 640MB:マークポジション記録 → マークエッジ記録
従来は、ON→OFF→ONの変化(マークポジション)で1ビットを表現していましたが、 540MB以降ではON⇔OFFの変化点(エッジ)を1ビットとみなす「マークエッジ記録」に変更されました。 これにより、実質的に同じ面積に2倍の情報量を記録できるようになりました。

■ 640MB → 1.3GB:MSR(Magnetically induced Super Resolution)
MSR技術は、隣接する磁気マークを「マスク(消す)」ことで、物理的なトラック幅よりも微細な記録を読み取れるようにする技術です。 光学的な解像度の限界を、磁気的な処理で突破するアプローチでした。

■ 1.3GB → 2.3GB:Land & Groove両面記録
従来のMOでは、主に「ランド部(平坦な部分)」に記録していましたが、2.3GB媒体では、 トラッキング用の溝(グルーブ)部分にも記録を行うことで、記録面積をさらに拡大しました。

MO媒体もフロッピーディスク同様、仮想環境でのイメージファイルの使用が多くなりました。 バイト数固定という条件を除けばハードディスクとの差がほとんどなく、MO依存のアプリの使用や、 実媒体との互換性を持たせたいなどの用途がなければ、仮想でも利用価値は低くなっています。
種類容量の増設方法トータルサイズセクタ数セクタ長F/S内部容量クラスタ数クラスタ長備考
128M127398912248826512FAT16127131648620762048最初のMO
230MZCAV228518400446325512FAT16228274176557314096
540Mマークエッジ5332480001041500512FAT16532963328650598192
640M2048バイト/セクタ6356008963103522048FAT166354206723878316384CD丸ごとに対応したい
GIGAMO(これより下は、個人的には未使用です)
1.3GMSR13967032326819842048FAT16FAT16が選択できないフォーマッターも存在
2.3Gランド&グローブ記録246841548812052812048FAT32FATは32のみ、UDF、HFS+なども使われる



CD(Compact Disc)


1980年代初頭、音楽ソフトの新たなメディアとして、 フィリップスとソニーの共同開発により登場したのが「CD(Compact Disc)」です。 当初は音楽再生専用のCD-DA(CD Digital Audio)として規格化され、 アナログレコードに代わる新世代のメディアとして急速に普及しました。

■ 物理構造と記録方式
CDは、直径120mm、厚さ1.2mmのポリカーボネート基板上に、 ピットとランド(凹凸)を螺旋状に刻むことでデジタルデータを記録します。 記録面はアルミ蒸着で反射層を形成し、その上を保護層で覆っています。
 ・記録方式:レーザー光を照射し、反射強度の違いで0と1を判別
 ・使用レーザー波長:780nm(赤外線レーザー)
 ・読み出し方法:非接触・光学式
 ・トラックピッチ:約1.6μm(DVDより粗い)

■ 容量と転送速度
 ・標準容量:約650MB(74分)または700MB(80分)、一部のCD-Rで約870MB(99分)
 ・転送速度(等速):150KB/s(×1倍速) ※PCでは最大52倍速程度まで高速化

■ CDの種類と用途の拡張
CDは当初の音楽用途から、パソコンでのデータ利用に広がる中で、以下のように多様な派生規格が登場しました。
 ・CD-DA・・・音楽用
 ・PCデータ用・・・ISO9660形式、Joliet、Rock Ridgeなど
 ・CD-Extra / Mixed Mode
 ・Video CD(VCD)・・・MPEG-1形式の映像CD

■ セクタ長が2048バイトの経緯
CDの歴史において、1つ触れておきたい技術的なポイントがあります。

CDはもともと音楽再生を目的としたメディアであり、CD-DA(CD Digital Audio)では「セクタ」という概念ではなく、 1/75秒単位(= 2352バイト)でデータが構成されています。 その後、パソコンでのデータ記録を目的としてCD-ROMが規格化されましたが、 CD-DAの構造を踏襲する形で、2048バイトを1セクタとする構造が採用されました。 この2048バイトという長さは、オーディオCDの構造上の制約(エラー訂正や制御情報との兼ね合い)から選ばれたものであり、 当時主流であったパソコンのディスクセクタ長(512バイト)とは一致しませんでした。

その結果、以下のような技術的な影響が発生しました:
 ・CD-ROMでは、2048バイトを基本単位としたファイルシステム(ISO 9660など)が必要となった
 ・OSやBIOSが直接セクタを扱う場合、512バイトとの非互換が問題になるケースがあった
 ・特殊用途のディスクでは、2352バイト全体を直接扱う「RAWモード」が使われることもあった
このように、音楽用として設計されたメディアが、のちにPC用途に転用される中で、 基本設計の影響が技術的な制約として残るというのは、CDというメディアの歴史の中でも非常に象徴的なエピソードと言えます。

CD媒体について、以下の通り、私なりにまとめておきます。
名称   名称(詳細)書込  消去 材質用途
CD-ROMRead-Only Memory××ポリカーボネート+金属反射層(アルミ)+保護層市販の音楽など。読み取り専用。
CD-RRecordable1回有機色素材(シアニン、フタロシアニン、アゾ系など)+金属反射層(銀合金)一度だけデータを書き込める。データ保存に使用。
CD-RWReWritable数百回
諸説あり
相変化記録層(Ag-In-Sb-Te系)+反射層繰り返し書き換え可能。バックアップなどに便利。



DVD(Digital Versatile Disc)


DVDは、CDに続く第2世代の光ディスクとして登場しました。 もともとは映像ソフト向けに規格化されましたが、次第にパソコン向けのデータ保存用としても広まりました。

構造としてはCDとよく似ていますが、レーザー波長の短波長化(780nm→650nm)と、 トラックピッチの縮小により、記録密度が大きく向上しました。

DVDの記録方式には以下の種類があります。
 ・DVD-ROM:読み出し専用(商用映画ソフト等)
 ・DVD-R / DVD+R:書き込み1回限り
 ・DVD-RW / DVD+RW / DVD-RAM:繰り返し書き換え可能(回数制限あり)
標準容量は片面1層で4.7GB。両面2層では最大17GBまで対応可能です。 ただし、DVD-RAMなどの一部規格は互換性に制限があり、再生できる機器が限られることもありました。 技術的には光ピックアップの2倍・4倍速化などが進められましたが、Blu-rayの登場により、 その役割は映像コンテンツと一部バックアップ用途に絞られていきます。

DVDは、書込むための技術はCDとほぼ同じです。だた規格が多く存在し意外と複雑です。下記にその一覧を示します。
名称   名称(詳細)書込  消去 対応UDF材質用途
DVD-ROMRead-Only Memory××UDF 1.02ポリカーボネート+金属反射層(アルミ)+保護層市販の映画やソフトなど。読み取り専用。
DVD-RRecordable1回UDF 1.02、1.50有機色素記録層+金属反射層(金または銀)一度だけデータを書き込める。データ保存に使用。
DVD+RPlus RecordableDVD-Rとほぼ同じ、ファイナライズ不要。
DVD-RWReWritable数百回
諸説あり
UDF 1.50、2.00相変化記録層(Ag-In-Sb-Te系)+反射層繰り返し書き換え可能。バックアップなどに便利。
DVD+RWPlus ReWritableDVD-RWとほぼ同じ、ファイナライズ不要。
DVD-RAMRandom Access Memory数千回
諸説あり
UDF 2.01、2.50、2.60高耐久な相変化材料+セラミック保護層高速アクセス・信頼性高い。PC用バックアップや一部レコーダー用。



Blu-ray Disc(BD)


Blu-rayは、DVDの次世代光ディスクとして2006年頃に登場しました。 波長405nmの青紫色レーザーを用いることで、さらに高密度な記録を実現しています。
 ・BD-ROM:商用映画やゲーム
 ・BD-R:書き込み1回限り
 ・BD-RE:繰り返し書き換え可能
容量は1層で25GB、2層で50GB。さらにBDXL(3層100GB、4層128GB)といった上位規格も存在します。 BDでは、「ピット」と「ランド」の構造に加え、ハードコート層による耐傷性の向上や、 UDF2.5/2.6ファイルシステムなど、新しい仕様も導入されています。 しかし、ストリーミング時代の到来により、物理メディアとしての役割は縮小傾向にあります。

種類用途・概要記録方式層構造と材質特徴・用途主なファイルシステム
BD-ROM商用配布用(映画・ゲーム等)プレス式(読み出し専用)ポリカーボネート+アルミ反射層+保護層再生専用。市販ソフトや映像コンテンツで使用。UDF 2.5 / 2.6(動画)
BD-R追記型ディスク(書き込み1回のみ)有機色素(Dye)を使った変化記録ポリカーボネート+記録層+反射層+保護層一度だけ書き込める。アーカイブや配布向け。UDF 2.5 / 2.6、ISO 9660など
BD-RE書き換え可能(約1,000回)相変化記録(Phase Change)ポリカーボネート+相変化材料層+反射層+保護層編集可能。テレビ録画やデータ保存に利用。UDF 2.5 / 2.6(動画・データ)
BDXL-R追記型ディスク(3層または4層)有機色素、マルチレイヤ構造3/4層の多層記録層+保護層100GB/128GBまでの大容量記録に対応。UDF 2.6(デフォルト)
BDXL-RE書き換え可能な多層ディスク(3層、100GB)相変化記録+多層技術3層の相変化記録層+多層反射構造+保護層大容量編集用途。BDXL対応機器が必要。UDF 2.6



仮想イメージとしてのCD・DVD・BD


CD・DVD・BDの3種類の光ディスクは、仮想イメージとしては主に「ISOファイル」という形式で取り扱われます。

このISOファイル(.iso拡張子)とは、本来はISO 9660ファイルシステム(CD-ROM規格)に基づいた ディスク全体のセクタ単位のイメージファイルを指しますが、 慣習的にDVDやBlu-rayなどの光ディスクも、同様にISO形式にパッケージングして保存されることが多くなっています。

CD / DVD / BD の仮想化における実用上の違い
パソコンで一般的に扱うデータ用途においては、CD・DVD・BDのISOファイルは同じように扱うことができ、差異は主に容量のみです。

DVDやBDのメディアでは、再生用プレーヤーがフォルダ構造を参照して「映像メディア」として識別します。 ISOファイルをマウントした場合でも、この構成が正しく存在していれば、物理メディアと同じように再生されます。

DVD-Video の構成例
/VIDEO_TS/
├─ VIDEO_TS.IFO (管理情報)                              
├─ VIDEO_TS.VOB (映像データ)                            
├─ VIDEO_TS.BUP (バックアップ)                          
├─ VTS_01_0.IFO / .BUP / .VOB(タイトル毎の分割データ)   
└─ ...                                                    
/AUDIO_TS/(基本的に空。DVD-Audioで使用)                   

Blu-ray Disc(BDMV)の構成例
/BDMV/
├─ STREAM/(.m2ts映像ファイル)                           
├─ CLIPINF/                                               
├─ PLAYLIST/                                              
├─ INDEX.BDMV(トップメニュー)                           
├─ MOVIEOBJ.BDMV(再生オブジェクト)                      
/CERTIFICATE/(認証ファイル)                               
/AACS/(コピー保護管理。市販BDのみ)                        


媒体容量ファイル構造の複雑さISO化の可否
CD650〜700MB単純(ISO 9660のみ)◎(全体のバックアップ可能)
DVD4.7〜9GBVIDEO_TSなどを含む○(動画・データ共にISO可)
BD25〜128GBBDMV構造・AACSなど△(著作権保護により制限あり)


法的注意点(コピー・バックアップ)
かつては、光ディスクの内容をISOイメージとしてバックアップし、仮想ドライブで再生するという運用も一般的でした。 しかし、2012年10月の著作権法改正により、次のような行為が違法となりました。
 ・市販のDVDやBD(コピーガード付き)をリッピング・コピーする行為
 ・バックアップ目的であっても、技術的保護手段を回避して複製すること
※私的使用の範囲内でも、技術的保護(コピーガード)を解除しての保存や再生は違法です。

このため、現在ではISO形式で市販メディアを保存・再生する機会は大幅に減少しており、 主に自作データの配布や業務用データバックアップなど、合法な範囲での利用に限られます。

ISOファイルのマウントは、かつては市販ソフトやフリーソフトが必要でしたが、 Windows10以降はOS標準でできるようになりました。


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